国際貿易の現場では、「THC(Terminal Handling Charge)」という費用項目を目にすることがあります。しかし、その内訳や意味が分からず、コスト管理が難しくなるケースも少なくありません。THCは輸出入の際にほぼ必ず発生する実費のひとつであり、契約条件によっては支払者の負担が大きく変わる重要なポイントでもあります。
本記事では、THCの基本的な理解から、費用の内容、支払いの流れ、注意すべき点までをわかりやすく解説し、実務で役立つ情報を提供します。
THC(ターミナル・ハンドリング・チャージ)の基本と含まれる作業内容

国際物流において必ず発生するTHCについて、まずはその定義と、実際に港でどのような作業が行われているのかを解説します。
THCの定義と発生するタイミング
THCは「ターミナル・ハンドリング・チャージ(コンテナ内荷役料)」の略称であり、港やコンテナターミナル施設において貨物の荷役作業や管理を行うために発生する手数料を指します。 主にコンテナ貨物(FCL/LCL)の輸送において発生する実費であり、貨物が出発する「輸出港」と、到着する「輸入港」の双方でそれぞれターミナルを利用するたびに請求されるのが大きな特徴です。 実務上、THCの請求元は通常、船会社やフォワーダーとなりますが、実際に荷役作業を行っているのは、専門の巨大なクレーンや設備を保有する港湾のターミナルオペレーター(港湾荷役業者)です。
THCの対象となる具体的な港湾作業
THCに含まれる作業は単なるコンテナの積み下ろしだけではなく、ターミナル内における複数の複雑な物流プロセスや事務手続きを包括しています。 物理的な作業としては、ガントリークレーンを使用した本船と岸壁間の安全なコンテナ移動や、岸壁からコンテナヤード(CY)の保管場所まで専用のトレーラー等で運搬する横持ち作業、そして出荷前・引き取り前の一時保管などが含まれます。
さらに、コンテナ外観の損傷有無やシール番号を確認するゲートでのチェック業務、B/L(船荷証券)やマニフェスト(積荷目録)といった重要な書類処理、ターミナル入出庫に必要なデータ連携などの情報処理費用もすべてTHCの範囲内となります。
2025〜2026年最新のTHC料金相場とスマートターミナル化の影響

近年の港湾混雑や労働コストの上昇に伴い、THCの相場は大きく変動しています。ここでは2025〜2026年現在の最新トレンドと、インフラの自動化がもたらす影響について把握していきましょう。
世界的なTHC料金上昇トレンドと地域別の相場
2025年から2026年にかけて、主要港における大規模な労働組合の賃上げ交渉妥結や、脱炭素化に向けたエネルギー転換への対応コスト増により、多くの地域でTHCが全体的に上昇する傾向にあります。 一般的なコンテナ1本あたりのTHCは150ドル〜400ドルの範囲で発生しますが、人件費が特に高い北米や欧州の主要港では高額になりやすく、例えば2025年の上海港(20フィート)は約150ドルであるのに対し、ロッテルダム港は約200ドルが目安とされています。
また、特別な温度管理や電源供給が必要な冷凍・冷蔵コンテナ(リーファー)や危険物コンテナなどの特殊コンテナは、標準コンテナに比べてTHCが30〜100%増となるケースが多く、綿密なコスト計算が求められます。

港湾混雑に伴う追加サーチャージと特定エリアの動向
世界的な物流網の混乱や港湾インフラのキャパシティ不足により、基本のTHCに加えて高額なサーチャージが加算される事例が相次いで発生しています。 特にストライキや天候不良で港湾混雑が激化している時期には、通常のTHC料金に加えて100ドル〜500ドル規模の追加サーチャージ(混雑料など)が突発的に請求されるケースも珍しくありません。
アジア圏でも独自の料金改定が進んでおり、韓国では2025年5月より特定船会社によるプサン・仁川のTHC大幅引き上げ(20ftで15万ウォン等)があったり、中国の寧波舟山港で基本料金が過去に10%改定されたりと、特定エリアにおけるコスト上昇の動きが活発化しています。
港湾のスマートターミナル化がTHCに与える影響
2026年現在、世界の主要港ではAIを活用したコンテナスタッキング(積み上げ)の最適化や、無人搬送車(AGV)などを導入する「スマートターミナル化」が急速に進んでいます。 このような最新設備を導入した港では、巨額な初期インフラ投資の回収や高度なシステム維持費が必要となるため、THC自体はわずかに上昇する傾向が見られます。
しかしその一方で、広大なヤード内でコンテナがどこにあるか分からなくなる「埋没リスク」や、港湾のオペレーション不足による「不慮の遅延」は大幅に減少しており、目先のコスト削減を優先するか、確実性を重視して自動化対応港を選ぶかが新たな物流設計の重要な判断基準となっています。
インコタームズ別のTHC負担区分と発生しやすいトラブル対策

THCを売主と買主のどちらが負担するかはインコタームズによって異なり、これを正しく理解していないと予期せぬトラブルにつながります。スムーズな取引のための注意点を解説します。
EXWやFOBなどインコタームズごとのTHC負担者
輸入者と輸出者のどちらがTHCを支払うかは、契約時に取り決めるインコタームズ(貿易条件)によって明確に定義されており、支払いのタイミングもそれぞれ異なります。
インコタームズについては以下の記事でご確認ください。

例えばFOB(本船渡し)やCIF(運賃・保険料込み)では、輸出港のTHCを売主が、輸入港のTHCを買主が負担するのが原則であり、輸出側は船積み書類発行前、輸入側は貨物引き取り時に精算されるのが一般的です。
特に注意すべきは、売主の負担が最も少ない「EXW(工場渡し)」を採用した場合であり、この条件では輸出港・輸入港双方のTHCをすべて買主が負担しなければならないため、以下の表を参考に自社の責任範囲を正確に把握しておくことが重要です。
| 取引条件(インコタームズ) | 輸出港のTHC負担者 | 輸入港のTHC負担者 |
|---|---|---|
| EXW(工場渡し) | 買主(輸入者) | 買主(輸入者) |
| FOB(本船渡し) | 売主(輸出者) | 買主(輸入者) |
| CIF(運賃・保険料込み) | 売主(輸出者) | 買主(輸入者) |
| DDP(関税込み持込渡し) | 売主(輸出者) | 売主(輸出者) |
THCの二重請求やサーチャージなどのトラブル対策
THCは見積書の中で「諸チャージ(Local Charges)」として一括りにされることが多く、内訳が不明瞭なことによる支払いトラブルが実務上で頻発しています。
よくあるトラブル事例として、船会社とフォワーダーの双方から二重にTHCが請求されてしまったり、請求されたTHCが輸出港分なのか輸入港分なのかが判別できなかったりするケースが挙げられます。
これを未然に防ぐためには、見積依頼の段階で請求窓口を一本化するよう交渉し、契約書や請求書上でも「Origin THC(輸出港)」と「Destination THC(輸入港)」を明確に区別して記載させる運用ルールの徹底が有効な対策となります。
THCと混同しやすい他の費用(D/Oチャージ等)との違い
港湾ターミナル周辺で発生する費用にはTHCと似たタイミングで請求されるものが複数あり、これらを正しく理解して区別しないと正確な物流コストの把握ができません。
例えば「D/Oチャージ」は、輸入時に船会社が貨物引き取り指示書(デリバリーオーダー)を発行するために徴収する「書類発行手数料」であり、荷役の実作業を伴うTHCとは性質が全く異なります。
また「ディマレッジ料(超過保管料)」は、あらかじめ定められた無料保管期間(フリータイム)を超えてコンテナをコンテナヤードに放置してしまった場合に発生する遅延ペナルティ料金であるため、これらもTHCとは明確に分けて計上する必要があります。
THCのコスト削減を成功させる具体的なノウハウと実践事例

避けられない固定費用と思われがちなTHCですが、事前の緻密な交渉やサプライチェーン全体を見直すことによって大幅にコスト削減できる可能性があります。ここでは具体的な成功事例を交えて紹介します。
THCコスト削減に向けた基本的な交渉術とルート見直し
THCは船会社やターミナルが定めた固定費というイメージが強いですが、物流全体の設計を根本から見直すことで間接的に総額を抑えることが可能です。 まずは費用構成を透明にしてくれる信頼できるフォワーダーを選定し、市況に応じて定期的な相見積もりを取るとともに、海上運賃やTHCを含めた「包括見積もり(All-in)」を取得して不透明なマージンを排除することが基本となります。
また、貨物の積み替え(トランシップ)が発生する航路では、経由地となる港でも荷役作業に伴うTHCが別途発生することがあるため、一見すると運賃が高く見える直行便(ダイレクト便)を利用した方が、結果的にトータルコストを安く抑えられるケースも少なくありません。
【事例】港の選定変更やボリューム交渉によるコスト削減効果
単なる相見積もりにとどまらず、具体的なボリューム交渉やルート変更によって、THCの負担額を劇的に引き下げた実務上の成功事例が近年多く報告されています。

例えば、自社またはグループ全体での年間取扱量が50TEUを超えるまとまった物量がある場合、フォワーダーやターミナルとの直接交渉によって通常料金から10〜25%の割引を引き出せるケースが存在します。
フォワーダーについては以下の記事でご確認ください。

さらに上海からロッテルダムへの航路において、利用する港を近隣の寧波(ニンボー)港へ切り替え、かつ年間100TEUのボリューム確約交渉を組み合わせた結果、40フィートコンテナ1本あたりのTHC費用を従来の450ドルから338ドルへと、実に25%も削減した実例が確認されています。
まとめ
国際物流におけるTHC(ターミナル・ハンドリング・チャージ)は、コンテナ貨物の積み下ろしからターミナル内の移動、一時保管、書類処理に至るまでの一連の荷役・管理プロセスを包括する不可欠な費用であり、輸出港と輸入港の双方で必ず発生します。2025年から2026年にかけては、世界的な労働組合の賃上げ要求や港湾の慢性的な混雑状況、さらに脱炭素化に向けたインフラ投資の影響を強く受け、最新の料金相場は全体的に5〜15%程度の上昇基調にあります。また、AIや無人搬送車を活用したスマートターミナルの普及により、多少のコスト増を引き受けつつも確実性とスピードを担保するといった、新しい基準での港湾選びの視点も実務担当者に求められるようになりました。
日々の実務においては、インコタームズ(FOB、CIF、EXWなど)による自社の負担区分を正確に把握し、見積書に記載されたTHCが輸出・輸入どちらの費用なのか、内訳を詳細に精査することが予期せぬ二重請求やトラブルを防ぐ第一歩となります。その上で、THCは「削れない固定費」と諦めるのではなく、取扱数量に応じたボリューム交渉や、トランシップを避けるルート変更、利用する港の柔軟な見直しを行うことで、物流コストを大幅に削減できる余地は十分にあります。激しく変化する国際物流の動向を常にアップデートし、費用構成が透明で信頼できるフォワーダーと連携しながら、自社にとって最もコストパフォーマンスが高く安定したサプライチェーンを構築していきましょう。


